短編官能小説2
by Mr.Peach
『いけない人妻−柔肌緊縛地獄』
ピンポーン♪
玄関のチャイムが鳴る。
誰だろう、せっかくTVドラマがいいところなのに。
春川由美、21歳。
3ヶ月前に夫、崇行と新婚生活を始めたばかりの、まだあどけなさの残る色白の美人である。
春川夫婦は12階建てのマンションの中ほどに愛の巣を築いていた。
由美は家事を済ませ、遅めの昼食を摂りながらTVドラマを見ていたところだった。
(新聞勧誘だったら「間に合ってまーす」って言うんだよ)
崇行の言い付けを頭の中で復唱しつつドアに向かった。
「どちらさまですかあ?」
「こんにちわ、宅急便です」
そっか、アブトロニック!
3日前に通販で申し込んだ健康器具がある。
由美はちょっとぽっちゃりとした健康美を誇る。
男性の目から見れば大変好ましいのであるが、由美自身は自分の体が好きでなかったのだ。
「はいはーい♪」
スリムな体型の自分を想像しつつ、思ったより早く着いたなァ、とドアを開けた。
そこに立っていたのは二人の男だった。
宅急便の制服を着用はしているが、何か異質なものを嗅ぎ取った。
反射的にドアを閉める由美。
しかし配達員が閉まりきる前のドアに足をこじ入れた、
「サインお願いしますよ」
恐怖で悲鳴も上がらない。
ドライバーかなにかの細い金属でチェーンを外しだした。
ガチャガチャと音が響く。
ものすごい力でドアが開かれ、由美は弾き飛ばされた。
腰が立たない。
必死でハイハイのように部屋の奥に逃げる由美。
それを下卑た笑いを上げながら二人の男が悠々と取り押さえた。
そこでようやく悲鳴を上げたのだが、由美の悲鳴は遮られた。
薬品を染みこませたハンカチを口と鼻に当てられ、羽交い締めに固められた。
誘拐組織。
由美がターゲットになったのは全くの偶然ではない。
由美の父親、高田恒夫は隣町に住み、町会役員を務めているのだが、最近越してきた暴力団とトラブルを起こしていたのだ。
「親父を怨むんだな」
野太い声で男がつぶやいた。
由美は必死に抵抗してもがく。
着衣が乱れ、色白の素肌が覗きだした。
一方の男の手が薄手のセーターの下から差し込まれ、由美の豊満な乳房を直に揉みしだく。
(おい、遊んでる場合じゃねえ)
(上物じゃねえか。少し遊ばせてもらっても罪はねえだろ?)
(くくく、テメエも好き者だな)
次第に意識が遠のく由美。
必死で抵抗し、もがいていた体の力も弱まってきた。
二人の男は用意してきた大きめのトラベルバッグに由美を押し込み、そのまま配送車に運び込み、見事な手際で誘拐が完了する予定だった。
その時。
「由美さーーーん!由美さーーーん!」
ドンドンドンと扉を叩く。
二人は顔を見合わせた。何事か?
「ごめん、開けるよー!」
ドアを開け、勝手に入ってきたのは、隣の部屋に住む梅沢トメ(83歳)だった。
二人の男に緊張が走る。
(どうする?殺るか?)
(いや、事を荒立てるのはまずい。適当にあしらうぞ。)
二人が目で合図する間もなく、トメがずかずかと部屋に入ってきた。
「由美さ・・・おや、若い衆!丁度良かった!あんたら、ちょっと手伝っておくんなっせ!」
トメは血相を変えて、二人の男の返事も待たず袖口を引っ張っていく。
「ど、どうされたんですか、おばあちゃん!」
誘拐時は迅速が第一であるが、決して怪しまれてはならない。時にはハプニングに対処する為、回り道も必要なのだ。
二人はプロフェッショナルだった。
「うちのじいさんが大変なんじゃよ、若い衆の力があればなんとかなるかもしれんけん」
トメに引き摺られながら、男たちは梅沢家に行かざるを得なかった。
重次郎、トメ夫妻が一人息子の重作の元に引き取られたのは、丁度一年前である。
重作は年老いた両親を看取る決意で家族を説得し、同居が始まった。
重次郎は大学病院に入院でき、家族の手厚い看護もあいまって、奇跡的に自力で歩けるまでに回復したのだ。
しかし痴呆の方はやや収まったとはいえ、まだ呆けていた。
自力で歩き回るようになった分、家族は大変な苦労を背負い込むのである。
そして今日。
トメは一人、洗濯をしていた。
重作は仕事、嫁もパートに出かけ、二人の孫娘もまた社会人として会社勤めで不在である。
洗濯と言ってもトメは全自動の洗濯機にとまどい、バスルームで手洗いの洗濯をこなしていたのだ。
重作夫婦はトメに何度か全自動洗濯機の使い方を懇切丁寧に指導したが、結局洗濯タライと洗濯板を買って来た。
トメがごしごしと汚れ物を洗っていた時に、そのハプニングは起こった。
目を覚ました重次郎が家族を探し、音のするバスルームに向かった。そこで重次郎の興味は洗濯機に移る。重作の嫁が水を張って衣服を浸けていたのだ。
重次郎が意識してそうなったのかはわからない。とにかく重次郎は洗濯機のスイッチを入れてしまったのだ。ゴウンゴウンと唸りだす洗濯機であったが、最新の低騒音タイプであったのと、トメの耳が遠いのが災いした。
重次郎は洗濯漕で回る洗い物を凝視しているうちに目を回してしまい、そのまま頭から洗濯機に倒れこんでしまったのである。
あからさまな轟音が鳴り響き、さすがのトメも気付いた。
必死で重次郎を引き上げようとするが、老女の力では無理があった。
回転を続ける重次郎の両足を残し、トメは最近仲良くなった隣の由美に救援を頼みにきたのであった。
回転を続ける老人の足に、さすがの男たちも心底驚いた。
「おばあちゃん、はやく洗濯機を止めて!」
「それがあたしゃさっぱりわからんでのう」
「うおーーーーー!」
男が重次郎の足を掴み、全力で引っ張った。
しかし、中で衣服と絡まっているのか、ビクともしない。
「おい!手伝え!」
二人の力を合わせて、重次郎の体が浮き上がるが、腰までは見えたものの衣服がクラーケンの触手のように絡みつき、また洗濯漕に吸いこまれてしまった。
「スイッチを切れ!スイッチ!」
「おれ、洗濯なんてした事ねえからわかんねえよ!」
「おれもだー!!」
「コンセント引っこ抜け!コンセント!」
洗濯機が止まった。
しかし中でどうなっているのか、重次郎の体は浮かび上がらない。
「! ロープ!」
「おお!お前、緊縛師だったな!」
早速手慣れた手つきで重次郎の体を亀甲縛りに縛り上げる。
「せーの!」
だめだ。
男たちもトメも途方に暮れたその時。
「排水しちゃいなよ」
由美が入ってきて、スイッチを捻った。
重次郎は15分間も呼吸ができなかったにもかかわらず、一命を取りとめた。
赤色灯とサイレンがこだまする中、重次郎は救急車に、男たちはパトカーに乗せられ、消えていった。
連行される際、トメが寄って来た。
「あんたら、まだ良心が残っちょる。真人間になって、戻ってきなっせ」
二人の涙が意味するものは、感激の涙なのか悔し涙なのかは知る由も無い。
ただ翌月になると、隣町の暴力団は引っ越していったという。
−END−