長編官能小説
by Mr.Peach
『女教師冴子−放課後の密室1【前編】』
幾何学模様できっちりと区画された街並み、桜並木が整然と植林された道路を一台の真紅のスポーツカーが走る。
ソメイヨシノが咲き誇り、桜吹雪の中をその真紅のオープンカーが疾走する。
アルファロメオ。
しかしこの古いスポーツカーを運転しているのは若い女性であった。
長い黒髪が風に舞い、ピンクの桜と戯れる。
その服装は落ちついた彩りながら、よく見ると非常に洗練された、お金のかかった身なりであることが覗える。
一条冴子。
裕福な家庭に育ちながらも、教育者の道を歩むエリート教師である。
教師として歩み始めたのが5年前。
現場での実績は高く評価され、この春、岩城第十二工業高等学校に赴任が決まったところである。
岩城第十二工業高校は地元では有名な高校であった。
校内暴力。
昨年も3人の教師が暴力行為で入院させられた。
校内での飲酒・喫煙は公然とされており、この学校から輩出される生徒の就職先は暴力団関係が最も多いという。
そう、冴子の評価されてきた実績とは、落ちこぼれ生徒達への更正能力なのだ。
桜舞う中、真紅のアルファロメオが校内にすべりこんで行った。
そしてその後を、一台の黒塗りの高級セダンもついて行った。
アルファロメオから降り立つ冴子。
思った以上に長身である。おもむろにサングラスを外す。女優としても成功したのではないか、と思わせるほどの美人であった。
ただでさえ目立つ派手なクルマから長身のすさまじいまでの美人が降りてくれば、目ざとい生徒たちが気付かないはずがない。
早速数人の男子生徒がちょっかいをかけてきた。
「ヒュ〜!
お姉さん、こんなガラの悪いところの何の用事?」
「ここはね、危ないとこだから、ボクらがボディガードしたげるよ」
「ボディガードの謝礼はお姉さんのボディでいいよ〜」
ぎゃはははは、とはしゃぎまわるその生徒たちを冴子は一瞥もくれず、校長室の方向に颯爽と歩き出した。
「おいおい〜、無視かよー、そりゃねえよセニョリータ」
冴子の前に一人の生徒が回りこんだ瞬間、その生徒の眼前を白刃のきらめきが走った。
ヒュン。
全身黒ずくめのスーツを着た男が日本刀を振り抜いたのである。
冴子の後ろから入ってきた高級セダン。
冴子のボディガードを勤める男たちであった。
「近藤。あまり手荒な真似はしないで。」
近藤と呼ばれた男は無言で刀を鞘に収めると、そのまま後ろを振り返り、二人の部下に指示を出した。
「矢島、お嬢さんのクルマの警護につけ。高岩はおれと一緒にガードに当たれ」
そう言い残し、冴子のあとについて行った。
「ちょ、ちょっと待てよコラァ!」
何が起こったのか理解できないその生徒たちが冴子らを追いかけようと一歩踏み出した瞬間。
先ほど近藤に日本刀を振りかざされた生徒の学生服が真っ二つに裂けてずり落ちた。
「ひ、、、、」
「よく来てくれた、一条先生」
でっぷりと太った男、校長の宮川一二三が冴子を歓迎した。
冴子は応接ソファに身を沈め、何かのファイルに目を通していた。冴子の後ろに近藤と高岩が無言で立っている。二人とも何もせずとも、明らかにその筋の者とわかる独特のオーラを漂わせている。
宮川は内心、おののいていた。二人のボディガードもさることながら、この冴子の氷のような落ち着きぶりにである。
普通、この学校に赴任してきた教師は個人差こそあれ、誰もがいくらかは緊張しているものである。
春の人事異動の際、教育委員会から「鳴り物入り」として一条冴子の赴任を聞かされていた。まだ27歳のその娘は驚く事に全国の名だたる荒廃校を更正させているという。
なに、履歴書などいくらでも書けるものだ、と高を括っていた。しかし。
「思ったほどの事はありませんね」
冴子が資料を読み終え言い放った。
「・・・思ったほどでない、とは?」
「この学校の荒廃の程度です。」
「はあ・・・そりゃまた。しかし昨年一年で3人もの教師が入院ですからな。報道機関には圧力をかけてもらってますからそう表沙汰にはなりませんが、入院まで至らない傷害などは日常茶飯事ですがねえ」
宮川は冴子の様子を覗いながら、自分の理解の範囲外のこの女を推し量っていた。
「近藤。明日からはあなた一人でいいわ」
「あのう、一条先生」
恐る恐る宮川が聞く。
「なんでしょう?」
「あらかじめ委員のほうから伺ってますから承諾はしておるのですが、そちらの方々、教室までは・・・」
冴子がニコリともせず、事務的に答える。
「授業は私一人がいたします。これは収拾がつかなくなった時の保険です。まあ、この学校ならこれが出る機会はないでしょうね」
「先生、あまり生徒を舐めてかからないことです。あいつらは、」
「校長、生徒たちに対してその呼び方はいかがなものでしょう?」
うぐ、と声を詰まらせる宮川。額は汗で脂ぎっていた。
「ご心配なく。私はこれでもプロですから。」
その時、外から乾いた音が跳ね返った。銃声である。3発。
「な、何事でしょうか!?」
宮川が目を剥いて立ちあがった。
「うちの矢島でしょう。おそらくやんちゃな生徒が私のクルマに悪戯しようとしたのでしょうね」
「はあ?」
近藤が携帯電話で何事か会話を始めた。続いて冴子に目配せでうなずく。
「ご心配なく。威嚇射撃です。生徒に怪我を負わせる事はありません。今のところは。」
冴子の最初の仕事は始業式であった。煙草の煙が渦巻く体育館、施設の損傷具合がこの学校の荒廃ぶりを物語っていた。
新任教師挨拶では、冴子は形式通りの言葉のみを放った。歓声と怒号渦巻く中、その声が伝わろうと伝わらまいと、全く気にしている風でもなかった。
冴子に勝算はあった。
しかし冴子の誤算はこの時始まっていたのである。宮川校長の屈折した人生観、冴子は宮川を見落としていた。その事が冴子の教師人生を大きく狂わせることになるとは、全く気付かなかったのだ。
3年建築科2組。
冴子が担任を務める教室だ。
授業開始のチャイムが鳴っても、教室内に入る生徒は半数に満たない。
廊下を爆音を上げてバイクを乗りまわす生徒もいた。一人の生徒を木刀やチェーンでリンチに遭わせている集団、怪しげな注射器を回し打ちしているグループ、どこから引っ張ってきたのか他校の制服の女生徒を輪姦しているグループもいた。
空の酒瓶を黒のパンプスでコツン、と脇に転がす。冴子である。
大勢の飢えた狼が待つ中、冴子は涼しい顔で教室に歩み始めた。
「おおーーー!
おい、なんだこの別嬪さん!
ウヒョー!」
「なんだテメエ、朝礼出なかったのかよ!
ねえ冴子せんせーい」
その生徒は冴子の肩にいきなり手を回し、尻を撫で始めた。
−続く−